はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

ヒナ田舎へ行く ブログトップ
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ヒナ田舎へ行く 290 [ヒナ田舎へ行く]

エヴァンはダンが去ると、表情を引き締め居間の戸口に立った。

両開きのドアは片方だけ開いていて、中を覗くとスペンサーがワイングラスを手に立ち尽くしていた。グラスを片付ける気なのか唇紋を舐める気なのか、エヴァンはしばらく様子を見守っていたが、じれったくなって直接確認する事にした。

「ずいぶんうまくやったようだな。眠っている子供相手に」エヴァンは音もなくスペンサーに近づき、耳元で囁くように言った。

スペンサーはぎくりとし、持っていたグラスを取り落としそうになった。エヴァンを睨みつけグラスをテーブルに戻す。

「子供?」誰の事を言っているのかさっぱりわからないといったふうに、スペンサーは訊き返した。

「ダンはまだ子供だ」とぼけても無駄だと釘を刺す。

「自分は大人だとでも言いたいのか?」スペンサーはまるで子供の見本のようにムキになって言い返した。

「ええ、まあ」エヴァンは不気味に頬の傷を撫でた。この傷がその証拠だ。いっそ何も知らない子供の頃に戻れたらどんなにかいいか。

さすがのスペンサーもこれには閉口した。怖がってはいないものの、尋常ならざる何かがあったことには気付いているのだろう。

「とにかく、ダンには手を出すな」

スペンサーは承服しかねるといったように、食ってかかって来た。「お前にとやかく言われる筋合いはないね。言っておくが、これは俺とダンの問題だ」

「だったら」エヴァンは語気を強めた。「今度はダンが起きているときにするんだな」凄むように言い放つと、身を翻し、部屋を出た。

自分でも意外なほど腹を立てていた。

ダンが誰に何をされようが知ったことではないが、ヒナにかかわることなら話は別だ。ダンがスペンサーに振り回され、仕事をおろそかにするのを見逃せるはずがない。

いまのところダンは何も気づいていないし、スペンサーも大きな行動に出る様子はなさそうだが――なにせこそこそと唇を奪うのがせいぜいだ――油断は出来ない。

しばらく様子を見るしかなさそうだが、エヴァンとしては滞在期間を決められる立場にないのが難点だ。

パーシヴァルが明日にでも帰ると言えば、エヴァンは帰らなければならない。

嫌だと言う権利はどこにもない。

が、嫌だと言ってみるのもひとつの手かもしれない。

そんな事を思いながら、エヴァンは部屋へと引き上げた。

今夜の仕事は終わりだ。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 291 [ヒナ田舎へ行く]

目覚めはまあまあ。

長旅で疲れていたのか、朝までぐっすりだった。

カーテンが開けられ、パーシヴァルはのそのそとベッドの上で起き上がった。思いのほか空気がひんやりとしていて、身震いすると同時に露出している上半身に鳥肌が立った。

一方、下半身は熱くてカチカチだった。

朝というのはこういうものだ。別に僕だけが特別ではない。きっとヒナだって、目の前でキビキビと動いているエヴァンだって、朝は大抵こうだろう。

粗相をしていなきゃいいけどと、パーシヴァルは伸びをしながら、上掛けの中をこっそり覗いた。

「おはようございます、クロフト卿」エヴァンが絶妙なタイミングで声を掛けてきた。こちらの裸など全く興味がないといった様子で、ベッドサイドにモーニングティーを用意する。

ちょっとくらい見たっていいんだぞ。

「田舎の朝は早いな」そう言いながら、カップを受け取る。ロンドンではこれほど早く起きることはほとんどない。いや、なかったと言った方がいいかな。

ジェームズと付き合うようになってからは(わお!なんていい響きなんだ!)、まだ暗いうちに起き出すこともしばしば。眠たい目を擦っていると、ジェームズがガウンを着せてくれて、まあ、つまりは、使用人が起き出す前に部屋から追い出されるだけなのだが。

「ヒナはもう着替えを済ませてキッチンにいましたよ」エヴァンが淡々と言う。

「なんだって?お寝坊さんのヒナが?」すっかり田舎に馴染んじゃって。このままここにいる気じゃないだろうね?「朝食は何時からだった?」

「七時半です」

「早い!早過ぎるよ!」パーシヴァルは憤然と言い、カップをエヴァンに返した。ぐずぐずしていたら、怠惰な独身貴族だといって馬鹿にされかねない。事実そうなのだが、何も知らない田舎者に馬鹿にされるのは我慢ならない。しかも彼らときたら、すごく魅力的だ。どうせならいい男だと思われたいじゃないか。

ベッドからすべるように降りると、シャツを持つエヴァンに背を向けた。シャツの袖に腕を通し、鏡の前に向かう。寝癖はそうひどくはないので、さっと整えるだけで済みそうだ。

「エヴァンも朝食の席には着くんだろう?」ボタンを留めながら訊ねる。

「はい。そうするように言われていますので」エヴァンは背後からパーシヴァルの髪に櫛を通し、ヘアオイルで金色の髪に艶を与え、素早く完璧に整えた。

エヴァンの動きには無駄がない。さすが、僕のジェームズ。見る目がある。

「まったく。なんだってこんなに朝早くから、胃を活動させなきゃいけないんだろうね!あ、ズボンはそっちの色にしてくれ」パーシヴァルは鏡越しに言い、差し出されたクラヴァットを手早く結んだ。

「でしたら、コーヒーだけにしておいたらいかがです」エヴァンは素っ気なく言い、ズボンと下穿きを寄こして、部屋を出て行った。

あとは自分でやれってことか。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 292 [ヒナ田舎へ行く]

湯気の立つ白いコランダーを手に、ヒナは意気揚々と食堂に入った。中身は茹で立てのたまご。お手伝いを申し出たら、これを持って行くようにと言われたのだ。

ていよく追い払われたことにはまったく気付かないのが、素直なヒナのいいところである。

「あれ?」ヒナは昨夜とは違う食堂の様子に、驚きの声を上げた。

テーブルが増えている。今朝はみんな揃って食事をすることになっているので、いつものテーブルだけでは誰かがあぶれてしまうからだ。

ヒナはいつものテーブルに無理矢理ひっつけられているテーブルにコランダーを置くと、テーブルの周りをぐるりとまわった。

「いっち、にぃ、さん、しぃ……きゅう!」

椅子の数を数え、どこに座ろうかとしばらく悩んで、結局いつもの椅子に座った。いつもの椅子は背当てがあまり高くなくて座りやすいのだ。

食事開始まで、まだ十五分ある。ヒナは足をぷらぷらさせながら、テーブルの上に置かれた数日前の新聞を手に取った。

くるくると丸めて、自分の頭をぽんと叩いて、きゃははと笑う。

大人数で食卓を囲むのは、日本を離れて以来のこと。とても楽しみだし、ちょっぴり興奮もしている。人が大勢集まると、決まって面白い事件が起こることをヒナは知っているのだ。

「やあ、ヒナおはよう。おやおや、今日もひとりかい?今朝はここに集まるようにと言われたんだけど、みんなはまだ?」

パーシヴァルが軽やかな足取りで、ヒナの待ち構える食堂にやって来た。

「パーシーおはよ。ヒナはノッティに手紙を渡してそのままここに来たから、ちょっと早いの」ヒナは快活に答えた。機嫌が良いので饒舌だ。

「手紙?ああ、ジャスティンに渡すやつね」パーシヴァルは言いながら、ヒナの隣に座った。

「シーッ!ジュスじゃなくてウォーターさん」不用心なおおおじに注意を促す。

「ははっ。ジュスじゃなくてウォーターさんね」不用心なおおおじは大きな声でヒナの言葉を繰り返した。

「もうっ」ヒナは丸めた新聞紙で、パーシヴァルの腕を小突いた。

「はいはい。それで、昨日の夜は楽しかったかい?バターフィールドとお茶したんだろう」パーシヴァルは好奇心から、ヒナの大好きな翡翠色の瞳を煌めかせた。

「楽しかった。フィフドさんがスパイじゃなかったらいいのにな」ヒナは残念そうに肩を落とした。

「うーん。でもスパイだからどうしようもないな。今日もいい子ちゃんにしてるんだぞ」

「そうする」

「ヒナここにいたんだ。あ、クロフト卿おはようございます」カイルがいつもよりも大きなパンかごを持って、せかせかと食堂に入って来た。九人分ともなれば運ぶだけでも大仕事だ。

とはいえ、手伝いの人数が多いのでそう大変でもないのだが。

「おはよう、カイル。いい匂いだね。おや、それはシモンのパンじゃないか」パーシヴァルの胃がぐぅっと鳴った。

「え、シモン?」カイルは、その名前聞き覚えアリという顏でパンかごをゆでたまごの横に置いた。

「シーッ!シモンのパンじゃなくて、ノッティの甘いパン」ヒナはパーシヴァルの腕をぽかぽかとやった。

「なんだって?ややこしいな。これも秘密なのかい?」パーシヴァルは声をひそめヒナに耳打ちすると、物言いたげなカイルににこりとした。

笑って誤魔化せると思ったら、大間違いである。カイルもそう馬鹿ではない。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 293 [ヒナ田舎へ行く]

料理と人が次々と食堂に集まり、いつもに増してにぎやかな朝となった。

テーブルの上は昨夜のメニューが馬鹿馬鹿しくなるほど豪勢で、満を持して登場したのは出来立てふわふわのオムレツ。ヒナの好物だ。

「おやおや。ずいぶん贅沢だな」パーシヴァルが、大丈夫なのかい?とブルーノを見る。

ブルーノは知ったことかというふうに、軽く肩をすくめた。

「計画を変更したんだ」ヒナの向かいに座るスペンサーがパーシヴァルの懸念に答える。「遅ればせながら、バターフィールドの歓迎会をする。さすがに自分のために用意されたものを贅沢だとは言わないだろう」いい案だろうとばかりに得意げに一同を見やった。

「これから毎日、毎食、歓迎会をするつもりですか?」根本的な解決になっていないことを、エヴァンが指摘する。

スペンサーは途端にぶすっとした表情に変わる。「警戒してつんけんするよりかはマシだと思うが?」

昨日の一件もあってか、二人の間には険悪な空気が漂う。

「ヒナとカイルは随分仲良くなったようですよ」険悪の原因とも言うべきダンが、のんきに口を挟む。

「主役のルークは遅いな?定刻を五分も過ぎたぞ」自由な時間に食事を摂ることに慣れているパーシヴァルは、お預け状態に不満のようだ。

「お父さんも来てないよ」カイルが言う。

「あ、ほんとだ。ヒューはどこ行っちゃったの?」ヒナは顔を左右に振り、ヒューバートの姿を探した。テーブルの端と端とが空いている。

「親父は顔を出さない気だろうな」ブルーノがぽつり。

「ねぇ、パーシー。ヒナのお皿にオムレツ乗せて。甘いパンもここに」ヒナは手の長いパーシヴァルを思う存分使う。ルークが来たら、すぐにでも好物のオムレツを口に運べるように。

「ヒナ、まだですよ。バターフィールドさんが来てから」パーシヴァルを挟んで座るダンがぴしゃりと言う。

「お皿に乗せておくくらいいいんじゃない?ほら、ヒナが手を伸ばすとさ――」悲惨なことになるだろう、とパーシヴァルはダンに理解を求めた。

それもそうだと、誰もが納得する。

「では、わたくしが彼の様子を見てきましょう」エヴァンが静かに言う。

スペンサーは、そのまま戻って来なくていいぞという顏でさらり。「そうしてくれ」

自分が申し出たこととはいえムッとするエヴァンは、無表情で立ち上がりなめらかな動作で一同に背を向けた。

戸口に、ルークが立っていた。あたふたと前髪を掻き上げながら。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 294 [ヒナ田舎へ行く]

目の前にクロフト卿の従者エヴァンが立ちはだかる。

もしかして、僕を食堂に入れないため?

ルークはたじろいだ。というか、逃亡寸前だ。

「お待ちしておりました。どうぞ」と、エヴァンが道をあけると、テーブルにずらりと並ぶ料理と左右に並ぶ高貴な面々がルークを一心に見つめていた。

こんなに人がいたなんて!いやいや、いるのは知っていたけど、なんていうか、壮観な眺め?従者二人を除けば、誰も彼もが伯爵家の血筋なわけで、そのうち三人は眩しいくらいの美貌の持ち主。こういう言葉、男の人にも当てはまるのだろうか?とくにスペンサーの隣に座っている初めて見る彼――おそらくはブルーノ――の髪の綺麗な事といったら。

「どうぞ」再度促され、ルークは背中を丸め恐縮しきりで、一番前の席に着いた。

「フィフドさん、ちこく」オムレツを前にじりじりとした様子のヒナがちくり。

ルークは泡を食った。

「あわあわ、そうだよね。ごめんね。眼鏡がちょっと見つからなくて探していたんだ」

そう言うと、なぜかスペンサーが納得の顔を見せる。

「あってよかったね」と言うヒナは、さっそく手を合わせて食事の前のお祈りを始めようとする。

祈りの言葉は、確か――『イタダキマス』

短いのは、日本流なのだろう。

「いただきます!」

まるで号令のようだ。

ルークも慌てて、手を合わせ、祈る。

「イタダキマス」

食事が始まると、すぐに自己紹介が始まった。朝食がやけに豪勢なのは、僕の歓迎会だからだと言う。嬉しくて、昨日のうちに紹介してもらえなかった悔しさなんか一瞬にして消えた。

「では、これは全部ブルーノさんが作ったんですか?」

事前に、ロス兄弟のこの屋敷での役割は聞いていたはずなのに、にわかに信じがたいのは、料理人にしてはとても綺麗な指先をしているから。

それに、ルークの知る料理人というのは、たいてい少し太めの女性だったりする。

「ブルゥのスコンはほっぺが落ちるよ」ヒナはふかふかのパンを頬張りながら言う。

カチカチのパンしか食べられないと嘆いていたのが嘘のように、にこにこしている。歓迎会だからなのか、それとも昨日のうちに、育ちざかりのヒナの食事に気を使ってあげて欲しいと進言したからか、とにかく柔らかいパンも口に出来てよかった。

もしかすると、伯爵の意に背くことになったかもしれないけど、どうにも言わずにはいられなかったのだ。ばれたらクビになっちゃうかな?

まあ、そのへんは報告書に書かなきゃいいだけだ。僕だって、ふわふわのパン、食べたいもの。

「それはぜひ食べてみたいものです」ルークはブルーノに向かって言い、ヒナと同じパンに手を伸ばした。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 295 [ヒナ田舎へ行く]

ブルーノは、こういう朝にありがちな不機嫌さで、むっつりと黙りこくり、なかなかよくできたオムレツをぐちゃぐちゃとつついていた。

ヒナがいじけたときによく見せる姿と同じ。

なぜ不機嫌なのかといえば、

「それではルークさんもネコがお好きなんですね。よかったですね、ヒナ」

と、ダンが楽しそうにバターフィールドと会話をしているからに他ならない。いつの間にか、ルークと呼んでいることも、当然のごとく気に入らない。

こんなちゃちな男にダンが惹かれるはずもないが、ヒナの為なら親しくもするだろうし、ことによっては……。

「――ね、ブルーノもそうでしょう?」というダンの問い掛けに、ブルーノは我に返る。そのまま会話に加わるのもしゃくなので、ダンに視線を置いたまま黙ってコーヒーカップに口をつけた。これが無口なブルーノの本来の姿だとでもいうように。

「違うよ、ダン。ブルーノはさ、そういうの好きじゃないんだ」と、カイルが言う。

いったい何の話をしているのかさっぱりわからなかったが、ブルーノはさも知ったふうな顔で、カップ越しにダンを見て、それからバターフィールドの方にも目を向けた。

へぇと、驚いたような納得したような声がもれ、再びブルーノを除いて会話が始まった。

どうにも腹立たしい。が、この状況はどうに出来るものでもない。

「随分、機嫌が悪いようですね」こっそりと囁くようにエヴァンが言う。

ブルーノは居心地悪げに身じろぎをした。見抜かれていたかと思うときまりが悪いが、自分でもあからさま過ぎたと反省もする。「騒がしいのが苦手なだけだ」

「そうでしょうね」と澄まして言うエヴァンは、ここにいる誰よりも冷静に周囲に目を配っている。

おそらくは、ダンへの気持ちも見透かされている。だからといって、へたに否定するつもりはない。

「そちらも同じだと思うが?」ベーコンをかじってにっこりと笑い掛けてくるダンに、笑い返しながら言う。

「ええ、まあ。ですが、たまにはこういうのも悪くないなと思います」

意外な答えに、ブルーノはエヴァンを見た。傷のない横顔は完璧な美を表現した彫刻のようで、思わずドキリとする。愁いを帯びた黒い瞳がゆっくりとこちらを向き、同意を求めるようにわずかに眉が吊り上った。

確かに悪くはないのだけれども、この騒がしい状況がいつまで続くのか分からないのが難点だ。

かといって、クロフト卿にさっさと帰れなどと言えるわけもないし、バターフィールドを追い出すわけにもいかない。

いつ、ダンと二人きりになれるのだろう?

ブルーノの頭はそれしか考えられなかった。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 296 [ヒナ田舎へ行く]

パーシヴァルが愛しのジェームズと離れてまでこんな片田舎にやって来たのは、かわいい甥っ子ヒナの為でもあり、将来自分が相続する土地を見ておく為でもあり、単に旧友と友情を育むためでもあった。

「午後はヒナと出掛けるんだって?」食事を終えくつろぐパーシヴァルは、ルークに話を振った。

「ええ、そうなんです。ブルーノさんの案内で屋敷の南側を散策する予定になっています」ルークは説明しながら、案内役のブルーノに目を向けた。

ブルーノはルークの視線も話の輪に加わることも拒絶しているようで、まったくの無反応だ。こういう素っ気ないところが愛しのジェームズと重なり、パーシヴァルは図らずも身体の芯を疼かせた。

「僕も行っていいんでしょ?」カイルはブルーノの機嫌などおかまいなしで、腕を取って揺さぶった。

「定員オーバーだ」ブルーノは苛立たしげにぴしゃり。かなり機嫌が悪いらしい。

「うそうそっ!まだ大丈夫だもん」カイルは子供っぽく騒ぎ立てた。ヒナは食後のデザートの最中なので、我関せずだ。

「では留守番は僕とスペンサーだけか。だったら僕はお隣さんを呼んでお茶会を開こうかな。エヴァン、手配してくれるか?」パーシヴァルは退屈しきった貴族っぽく、ひらりと手を振り命じた。

「おまかせください」パーシヴァルのたくらみを知ってか知らずか、エヴァンは忠実なしもべのごとく応じた。本物の主人に会えるのだから断る理由もない。

これにはヒナが目の色を変えた。フォークを置き、パーシーだけずるいと睨む。

「だったら僕は留守番していようかなぁ」カイルが手のひらを返したように、ウェインが来るのを見越して言う。

「ヒナも留守番する!」

それでは意味がない。

「ヒナはダメだよ。散策もお勉強のうちなんだから。ね、ルーク」パーシヴァルはルークに向かって、優雅に微笑んだ。あとは任せたぞという意味だ。

ルークにヒナの鋭い視線が突き刺さる。獰猛な山猫のような威嚇音を発し(おそらくは悪態を吐いたのだろう)勉強よりも大事なことがあると、猛然と主張する。

ジャスティンに会えなければ、いい子になんかしていられないというわけだ。

まったく。このままではここを追い出されてしまうぞと、パーシヴァルはなかばニヤつきながら、ルークとヒナのやり取りを見守った。

パーシヴァルとしては、ヒナがここでどう過ごそうが、ルークにヒナに不利な報告書を書かせるつもりはなかった。

さて、ヒナはルークを説得できるのだろうか?それとも強行突破?

つづく


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ヒナ田舎へ行く 297 [ヒナ田舎へ行く]

ヒナが猛反発してルークを困らせているのを横目で見ながら、ダンはブルーノの様子をこっそりうかがっていた。

ブルーノの機嫌が悪い。

話し掛けたって無視するし、やけにエヴァンと仲良くしてるし。

僕、なにかした?嫌われるようなこと。

「じゃあ、いまからぐるりする」ヒナは握ったこぶしをテーブルに叩きつけた。現在、午後のお茶会に参加するため交渉中だ。

「午前中は、アダムス先生の宿題をやるんだろう?」クロフト卿が興奮するヒナをやんわりとたしなめる。終始くすくす笑いを漏らしているのは、この状況を面白がっているから。

「帰ってからする」ヒナは一歩も譲らない。

「だめだめ。ブルーノの都合だってあるだろう?」と、クロフト卿はにやにやしながらブルーノにバトンを渡した。

「ブルゥ、お片付け手伝うから、いこ」おねだり上手なヒナが、椅子に座ったままもどかしげに身体を揺する。

「そうしたいが、ピクルスの都合もあるからな」と、これまたニヤリと笑ってヒナをかわす。

なんだ!僕の事は無視するのに、ヒナにはへらへらしちゃって!

ダンは完全にそっぽを向いた。

「わかった。ヒナ、こうしよう。ヒナが戻って来たら、お茶会を始めるっていうのはどうだ?ウォーターズにもその時間に来てもらえばいい。なあ、エヴァン。いい考えだと思わないか?」

「おっしゃるとおりです」エヴァンは型通りの言葉を返した。見事にクロフト卿の従者を演じている。

「うむむ」ヒナが呻った。

まるで旦那様みたい、とダンは思った。夫婦や恋人は長く一緒にいればいるほど似てくると言うけど、どうやら本当みたい。

「そうすればいい」スペンサーが話をまとめにかかった。「ブルーノとヒナと、ルーク。カイルも行くのか?それじゃあ、残った俺たちは茶菓子の買い出しにでも行くか」そう言って、ダンを見る。

むしゃくしゃしているダンは「ええ、行きましょう!」と声高に言い、ブルーノの反応を確認するように正面を見据えた。

ブルーノはどうぞお好きにというような顔つきで、ゆったりと(まだ!)コーヒーを飲んでいる。おなか壊したって知らないから!

ダンは自分がすっかり不機嫌になってしまったことにも気づかないまま、迂闊にもスペンサーと二人きりで出掛けることを了承してしまった。

昨夜、眠っている間にキスされたと知っていたら、二人きりになろうなんて絶対思わなかっただろう。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 298 [ヒナ田舎へ行く]

午前の残りの時間、各々いつものように過ごしていた。

ヒナはカイルと一緒になって宿題をこなし、時間の空いたダンは珍しく部屋でのんびりとしていた。いつもなら片付けのあと、ブルーノと世間話でもしているところだが、なにせ二人は現在けんかちゅうだ。けんかする理由など特にないのに。

ルークは自分の部屋で書き物机に向かっていた。

ひとまず、記録を取っておかないと、すぐに忘れてしまうからだ。

ペンを手にして、まず、今朝のヒナについて書き留める。

少食で偏食。甘いものには目がない。

いやいや、そんなことよりも気になったのは、隣人がやって来ると言った時のヒナの反応だ。会えなきゃ何をするか分からないといった暴れっぷりで、テーブルまで叩いた。

話を聞けば、知り合いだという。

この事実に、ルークは顔を顰めた。

隣人が知り合いなのはかまわない、はず。けど、ここへやって来るのはまずいんじゃない!?

そもそも伯爵は、ヒナ以外の立ち入りを禁じている。クロフト卿がここにいるのだって、きっと問題なのだ。でも誰がクロフト卿に出て行けと言える?僕は無理。ムリムリ。

ノック音がして、エヴァンが部屋に入って来た。

返事、していないのに。

「どうされました?」さっと報告書を隠しながら立ち上がる。

エヴァンはルークの仕事を尊重してか、ドアの前に立ったままだ。

「これからクロフト卿の使いで、ウォーターズ邸へ行ってきます」

「あ、はい。いってらっしゃい」行ってきますと言われれば、そう答えるしかない。

「このことで、ヒナに影響が出ますか?」そう訊ねたエヴァンは心底ヒナを心配しているようだった。

もしかして僕は、やんわりと釘を刺されたのだろうか?だとしたら、きちんと話をしておく必要がありそうだ。

「報告書の事ですか?」

エヴァンは目だけで頷いた。

「クロフト卿のお客様ですから、とくに報告するつもりはありません。けど――」言葉を切ったのは、それが本当に正しいことか分からなかったから。

けれどもその隙をついて、エヴァンが鋭く切り込んできた。

「けど?」

「他の事は報告書に記載しなければいけません。それが僕の仕事ですし」

「では、歓迎会をしてもらったことも報告書に記さなければいけませんね。その場にヒナもいたのですから」心なしかエヴァンの声に凄味が加わった。

これはもう、ほとんど脅しでは?

「僕の仕事について、エヴァンさんが口を挟む権利はありませんよ」膝をガクガクさせながらも、ルークは毅然とした態度を貫いた。

こういうのは最初が肝心だという。先に一歩譲れば、もう前を行くことは出来なくなる。

しばらく押し黙ったままだったので、てっきり反論されると思ったが、エヴァンは「それは失礼いたしました」と言って、部屋から出て行った。

ルークはドアが閉まった途端、腰を抜かした。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 299 [ヒナ田舎へ行く]

結局、余計なことをしてしまったのだろうか?

エヴァンは自問しながら、ルークの部屋を出た。

ヒナは旦那様のこととなると、周りが見えなくなる。それをわかっていて、クロフト卿はヒナを挑発した。おそらく旦那様も同じように挑発する気だろう。

まったく。性根が腐っているとしか思えない。ジェームズ様も、選ぶ相手を間違えたようだ。旦那様の代わりがクロフト卿だなんて、冗談が過ぎる。

おかげでルークの目には、ヒナはただのわがままにしか映らなかったのではないだろうか?ヒナは旦那様に会うためなら、どんないい子にもどんな悪い子にもなれる。朝食の席では、ちょっぴり我を忘れただけで、悪い子ではなかったと思う。

だが、すでに報告書に取りかかっていたところを見ると、きっと悪い子の判定を下したのだろう。

部屋から遠ざかりながら、ルークは侮れないなと漠然と思う。敵地に乗り込んでも、自分の仕事をきっちりとこなすのだから。

少し遠回りをして、キッチンを避けて勝手口に向かう。コート掛けから外套をひったくるようにして取ると、ドアを開けて外に出た。

どうも屋敷の中は息苦しい。ダンとブルーノの間に不和が生じているのも一因だろう。

エヴァンは深呼吸して、木陰に繋がれているフロッキーに近づいた。フロッキーは新参者を見てブルルッと鼻を鳴らした。

「今朝あいさつをしただろう?」

声を掛けると、フロッキーは「そうだったか?」ととぼけるように首を巡らせ、そっぽを向いた。

「気難し屋だな。お隣までちょっと散歩しないか?カイルには許可を貰っているぞ」

フロッキーはカイルの名前に反応してか、長い睫の下からエヴァンの様子をうかがう。そういえば、こいつの仲間がしばらく間借りするとか言っていたなと考えたかどうかは分からないが、「乗れよ」というようにこちらに身体を差し出した。

「悪いな」礼を言うように、頬を撫でてやると、今度は嬉しそうに鼻を鳴らした。こちらが好意を抱いていることに気付いているのだろう。

「エヴァンさん!」

不意の呼び掛けに、フロッキーが不機嫌そうに顔を振って、あとずさった。

エヴァンも途端に不機嫌になる。心通える相手とのお楽しみを邪魔されたのだ。腹を立てて当然だ。

「なんでしょうか?」

振り返ると、頼りなさげな面持ちでルークが立っていた。

「あ、あの、先ほどの事ですけど……僕は自分の仕事をしなければいけません。けど、何も知らずに、見たままだけを報告なんて出来ません。ヒナの事をもっと知る必要があります。だから、しばらくはペンを持ちません。もしも僕に知っておいて欲しいことがあるのなら、遠慮なしに言って下さると助かります」

やはり、侮れない。

しかも、敵と言えども悪い人間ではないようだ。

だからこそ、やっかいなのだ。

「わたしこそ、出過ぎた真似をいたしました。戻ったら、少し話をしましょう」エヴァンはそう言い残し、ウォーターズ邸へ向かった。

つづく


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